やりたいことを求めてふたば未来学園高校へ。フィールドワークで震災の現状を知る。
遠藤美来さんは、2020年4月に東日本大震災・原子力災害伝承館のオープニングスタッフとして就職し、同年9月20日の開館を経て、2021年5月に語り部として活動をスタートしています。中学3年生の進路選択時、将来の夢が漠然としていたことから総合学科がある、ふたば未来学園高校へ進学。やりたいことはなかなか見つからなかったそうですが、未来創造探求活動という授業のフィールドワークが転機となります。「私が高校へ入学したのは2017年。震災は過去のものだと思っていましたが、双葉郡の街並みが震災当時のままで残っていることに衝撃を受けました。」実際、双葉郡では現在も帰還困難区域が広く残り、避難生活を続ける人がいる一方、避難指示が解除された場所でも新生活を止めてまで帰還する人は限られています。校舎がある広野町でも当時の帰還者は高齢者が多数。しかも、長い避難生活で地域のつながりは薄れ、ひきこもる高齢者もいる状況だったそうです。
高校卒業後、伝承館で働くことを決め、語り部となった経緯を語る遠藤さん。
高齢者との交流をきっかけに伝承館へ就職。恩返しのためにと語り部として活動。
そこで、遠藤さんたちが考えたのが料理を通じた交流でした。高校生と高齢者が町内の集会所に料理を持ち寄って一緒に食事を楽しむことで、外出する理由をつくり、高齢者同士をつなぐきっかけを生み出したのです。当日の参加者たちの笑顔を見て「私たちが目指していた活気あふれる広野町に少しでも近づいたと感じました」と遠藤さんは振り返ります。そうした活動が目に留まり、先生のすすめで伝承館へ就職。開館後しばらくは受付等の業務を行いますが、2021年5月に語り部としての活動を始めます。伝承館での震災の講話は、個人向けと団体向けの2つあり、個人向けは地域で活動する語り部の方々が展示室内のワークショップスペースで1日4回を実施。団体向けはNPO法人「富岡町3・11を語る会」の講師や遠藤さんたち伝承館のスタッフが1階の研修室で行っています。「地域の復興のために恩返しをしたい、そんな想いで活動しています」と遠藤さんは語ります。
地域貢献について考えるきっかけとなった、ふたば未来学園高校でのフィールドワークについて語る遠藤さん。
震災があったからこそ出会えた人へ。日常を大切に生きることを伝える。
そんな遠藤さんにも当初は葛藤がありました。「私はいわき市の出身。双葉郡には自分よりつらい経験をしている方がいるのに、自分が語り部でいいのか」と思う日もあったそうです。しかし、来館者の小中高生には震災の記憶がなく歴史の一部と捉える人が多いと感じる一方、「大人の方には涙を流しながら『あなたの話が聞けてよかった。記憶を風化させないようにこれからもがんばって』と言われたことがありました。私は語り部なんだと改めて自覚しました」と遠藤さん。「震災があったからこそ、たくさんの人と出会えました。大切な人と今という日常を大切に生きてほしいと伝えています。」また、震災をきっかけに福島県に関心を持った人に、自然や食といった地域の多彩な魅力も発信しています。「復興は少しずつでも着実に進んでいます。私の講話もそれに合わせてよりよいものにしていきたい。もっと地域に寄り添い、お客様と向き合える語り部になりたいです」と遠藤さんは語りました。
講話を行う研修室。「年代が近い人の経験を聞きたい」という先生の要望から児童生徒や学生に語ることが多いという。
東日本大震災・原子力災害伝承館
福島県双葉郡双葉町中野高田39
TEL:0240-23-4402