地域コミュニティーの再構築を図りながら、各種メディアや講演を通じて情報を発信。
葛尾村出身の下枝さんは震災当時、東京の会社で勤務中でした。Uターンを考えて辞表を出したところ、その2時間後に東日本大震災が発生。県内に入って転職先の物資輸送ボランティア活動に携わり、4月には本宮市の運送会社へ正式に移ったのです。そんな中、2012年には地元の持続可能なコミュニティー作りに取り組む葛力創造舎を設立し、2016年にUターン。以来現在まで、葛尾村の地域再構築に取り組んできました。地域再構築に向けてイベントや人材育成を行う中、各種メディアで村や地域作り等の情報発信も行っています。関心の高い人々を宿泊させて村との関係作りを図ろうと、2019年には民泊施設ZICCAを開設。同時にインターンシップを始めて学生も募集したところ、参加した学生が積極姿勢で活動するようになりました。下枝さんはこの状況を「徐々に自分以外も活動するようになったことで、0から1の段階に移ったのでは」と分析。活動の広がりに手ごたえを感じています。
葛力創造舎に併設されている民泊施設ZICCA。活動に関心の高い人々が集まれば、自然と情報発信や意見交換の場になることも。
震災や原発事故を次世代に伝えられるよう、2023年からは大学教員としても活動。
下枝さんは2016年の帰村時から、葛力創造舎WEBサイトに村民インタビューを掲載してきました。当初は帰還者のみを対象に、村民と顔の見える関係を築こうと実施。すでに全村民一巡を果たしています。学生向けの講師やイベントでの講演にも取り組み、2022年は約30件、2023年には20件ほど実施。メディアによる取材や番組出演にも対応し、地域再構築の取り組みについて発信してきました。2023年からは山形県の東北芸術工科大学の教員となり、学生たちへ取り組んできた地域作り活動について伝えています。そんな伝える活動の基盤となっているのが「震災や原発事故も公害等のように次世代へ引き継がれていくべき」という思いです。その一方で「発生から12年経っても明確な教訓が得られていないのではないか」という危惧も。下枝さんは「原発事故が何だったのかという問いへの答えや次の時代への提言がいまだ出されていない」と、次世代への継承に向けた課題も口にしていました。
伝える活動は「お金にならず学生が移住する訳でもない」と話す下枝さん。それでも続ける理由は「楽しいから」なのだそうです。
演劇で追体験させる伝え方に感じた可能性。アート活動を通じた地域作りにも取り組む。
活動を通して多様な伝え方にも触れてきた下枝さん。その中ではただ情報を残すだけでなく、受け手が体感できるような伝え方に興味を覚えたそうです。特に劇を作らせて演じさせる手法には「面白い」との感想を挙げていました。現在の学生たちが震災時にまだ幼かったことにも触れ、原発事故の記憶がない世代には情報を伝えるだけでなく「それを基に想像させて自分ごととして考えさせることが必要」と指摘。伝えることから一歩踏み込んで「出来事を追体験させることが大切」だと話しています。下枝さんはこういった考えから、祭りやアート活動を通じて住民の気持ちを地域社会に寄せていく活動も展開。村の中学校では、葛力創造舎のスタッフがアート活動に取り組んでいます。帰村後に祭りや共同田植えを復活させてきた下枝さんですが、これも村作りを追体験させる取り組みの一環です。下枝さんは引き続き追体験を促す伝え方に取り組みながら「今後も地域の再構築を図っていきたい」と笑顔を見せていました。
葛尾中学校をアーティストたちの拠点にして、創作活動をサポートしている葛力創造舎の森健太郎さん(左)と大山里奈さん(右)。
葛力創造舎
福島県双葉郡葛尾村野川字十良内118-2
TEL:0240-23-6820
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MAIL:info@katsuryoku-s.com