

会場は請戸漁港や津島小学校、夜の森公園等。地元、遠方を問わない来場者で盛況に開催
東あすかさんは前職の町内コミュニティ再生支援事業をおこなう一般社団法人 まちづくりなみえに勤務していた際、2021年に任意団体「なみえコミュニティシネマ」を立ち上げました。映画を通じたコミュニティづくりや地域活性化を目指して、浪江町や浜通りを中心に映画上映会を開催し、今年で4年目。これまで年2回ほどの頻度で実施し、セレクトした映画を上映してきました。開催場所は浪江町の請戸漁港や津島小学校、富岡町の夜の森公園等。屋内・屋外を問わない地域の魅力を感じられる上映会に、地元だけでなく遠方からの来場者も増え、回を追うごとに賑わいを増しています。

初めて開催した上映会の様子。道の駅なみえに大型スクリーンを準備し、「クリード チャンプを継ぐ男」を上映。多くの人が集まりました。
2021年に記念すべき第1回を開催。4年目にはボランティア応募が30名超に。
東さん自身映画が好きで、上映イベントは自分自身のやりたいという気持ちも特に強いものでした。初年度は8名ほどのボランティアの協力を受けて、業者選定をはじめ上映会実施のための枠組み作りを手探りで開始しました。
2021年10月、記念すべき第1回上映会を道の駅なみえにて開催。2年目には町内の地域支援団体からもサポートの申し出があり、3年目には浪江町からも協力を得ることができました。今年はWebでのボランティア募集に30名ほどの応募があったそうです。
上映会はいつも盛況で、地元はもちろん遠方からも来場があるそうです。かつて浪江高校に勤務していた福島市の教師が上映会に訪れたときがありました。震災で恐怖心ができてしまい浪江町に来られなかったけれど、上映会をきっかけに再訪できたそうです。「震災の記憶は土地の記憶に深く結びついてしまうけれど、そこに上映会の記憶を新たに追加していくことはできるのではないか」と東さんは考えます。

実行委員たちとの準備の様子。地域おこしを目的とする団体が浪江町にはいくつもあり、皆連携して活動しています。
復興につながる仕事に携わりたいという意欲の中、上映会から生まれた新たな思い
東さんが復興や地域支援にこだわり続けるのには理由があります。東さんは学生時代サッカーに励み、国際スポーツ科ができた福島県立富岡高校に入学しました。山梨県の大学に進学して2年生の時に震災が発生。離れた土地で福島県や縁の深い富岡町のことを思い「無力感がすごかったが、地元のために何かしなければいけないと必死だった」と東さんは振り返ります。
卒業後福島県に戻り、子どもの体力・運動能力に関する研究に従事したほか、双葉郡内の教育復興のコーディネーター、サッカーの指導者、浪江町のまちづくり会社…と様々な仕事に取り組んできました。福島県のためになっているかという問いが常にありました。
しかし上映会を運営する中で、少し変わってきた部分があると東さんは言います。自分が元々好きな映画に携わり、それが地域を明るくする一助となることを経験しました。自分自身が好きなことをしたり楽しんだりすることも、復興につながるということが新鮮な体験だったといいます。

「上映会を始めたここ数年、自分自身の心境が少し変わってきた実感があります」と話す東さん。
映画を上映する場所は、震災に関連するかではなく、来て、見て欲しいと思う浪江町の場所。
上映会は今後も予定されています。開催場所は、映画を見たら心に残る景色・風景かどうかが基準で、浪江町や浜通りにはそういう場所がたくさんあるそうです。映画を観に来るだけで周辺の状況は知ってもらえる。だから、被災地だからではなくて素敵だから来たいと思ってもらえるイベントにする。その思いが東さんを突き動かします。
伝承には小規模でいいから記憶を人と話し続けることが大事なのではないかと東さんは考えます。そして活動を続ける自分たちが今どんなふうに進み続けているか、決してネガティブなばかりではないということを発信し続けるべきであるといいます。その地域の魅力を発信し続け、人と人がつながり続けるために、東さんは活動を続けていきます。

請戸漁港での上映会の様子。見慣れた景色が違った世界に見えたといいます。名作に会場全体で没入し、ともに時間を過ごしました。