現代アートの祭典を企画・立ち上げ。写真家レスリー・キー氏や江戸前鮨の名店とのコラボレーション。

堀川さんは東京を拠点に活動する編集者です。子育て期間中の2022年3月に、福島の復興や再生を目的に、文化的・社会的な活動を通じた地域活性化を目指す現代アートの祭典「ふくしま浜通り国際芸術祭」を立ち上げます。堀川さんは芸術関係者や地域の生産者、地元の先輩後輩等に声をかけ、賛同者を集め準備室という形でスタートしました。
同年12月に世界的に活躍する写真家レスリー・キー氏による撮り下ろし写真展を、南相馬市、浪江町、大熊町、富岡町、楢葉町の5会場で同時開催。そして2023年には浪江町と富岡町にて、福島を拠点に活動し、日本人で唯一ユージン・スミス賞を受賞した写真家岩波友紀氏とレスリー・キー氏の写真展示と、江戸前鮨の名店「鮨なんば」店主による常磐ものを用いたダイニングイベントを行いました。
全国規模、世界規模で活躍する料理家やアーティストを浜通りに招いてのイベントは堀川さんが企画し、自分自身が培ってきた関係性や実績を活かして実現させました。

2022年の写真展。ニューヨークと東京を拠点に活動するレスリー・キー氏により浜通りの住民やゆかりのある人の撮影を行いました。

故郷の名前をインターネットで検索したときに出てくるネガティブな印象を変えたいと思った。

震災発生時堀川さんは東京にいてちょうど撮影中でしたが、震災直後の混乱の中福島に向かい親戚家族を東京に連れ帰りました。当時、福島から避難した子どもたちが転入先の学校でいじめられるという事件や報道が多数あり、福島出身だという事実を伏せることを選んだ家族が多くありました。「あれからその子どもたちが自ら福島出身だということを誰かに言うきっかけや、言いたくなるような出来事はあるだろうか。彼らに負い目を感じさせたくない、故郷のことを堂々と話したくなる場所にしたい。故郷のいいニュースが、故郷から離れて暮らす人々にも届くようにしたい」という思いが募ったといいます。
堀川さんにも子どもがいて、できることを模索する日々。もし自分が今子どもで富岡町にいたら何を欲するかを考え、たどり着いたのがアートの存在でした。
脳裏には瀬戸内国際芸術祭がありました。1990年に産業廃棄物の不法投棄が行われ、"ゴミの島"と呼ばれた香川県豊島。島の本来の豊かさに焦点を当て、2010年からアートと食を中心とした取り組みが行われている芸術祭です。浜通りでもアートの力で価値と魅力を創出・発信できないかと考えました。故郷の名前をインターネットで検索して、出てくるネガティブな印象を変えたかったといいます。

編集者・ライターとして活躍する堀川さん。子育てをしながら、芸術祭を企画・運営しています。

地域との対話を繰り返し、実現に向けて少しずつ積み上げた写真展と常磐ものの食事会。

浜通りで芸術祭をやりたいという話を親交のあったレスリー氏に話したところ、すぐに賛同をもらえました。レスリー氏は多忙で、来日中のわずかな時間を確保し撮影を敢行します。南相馬市からいわきまでの163㎞の道のりを移動しながら、たった1日で浜通りの住民やゆかりのある人総勢142人のポートレート撮影をしました。
「浜通りの人を浜通りで、一人でも多く撮りたいと、誰よりも忙しいレスリー自身が言ってくれました。レスリーの撮りたい浜通りを作品にし、それを浜の皆さんに観てもらいたいという一心でやり切りました。これまで仕事で経験してきたどんな現場よりハードだったけど、撮影に協力し、参加してくれた浜通りと浜通りを思う皆さんがいてくれたからできたロケでした」と堀川さんは振り返ります。
2023年には写真展『浜通りの背景』と食事会『ただでさえ美味しい常磐ものを鮨なんばの大将がなんと浜通りまで来て握ってくれる会』を開催。写真展は夜ノ森、赤木、大堀の三か所での屋外展示。食事会は浪江町にある築140年の古民家を会場にしました。浜通りの海が生んだ常磐ものの魅力、安心・安全・美味しさを、多くの来場者にまっすぐに伝えることができました。

2023年の写真展と同時開催した食事会の様子。双葉郡各町村の首長や東京からのゲストが常磐ものを堪能しました。

浜通りと世界をつなぐ役割でありたい。芸術祭の名に込められた思い。

次回のイベントとして構想しているのは、キース・へリング美術館のディレクターHiraku氏とのコラボレーションイベントと、公共空間や路上を舞台としたアートプロジエクトを展開するアートチーム「SIDE CORE」たちとの展示とワークショップです。準備ができれば2025年に、富岡町か大熊町で「つながる」表現をしたいと考えています。
ふくしま浜通り国際芸術祭という名前にはこの活動で浜通りと世界とつなげたいという思いを込めました。東日本大震災で起きたことは世界の課題でもあり、浜通りと世界をつなぐ自分は翻訳者でありたいと堀川さんは話します。
「浜通りの活動をするにあたり、東京在住であることは正直もどかしいことも多いのですが、逆にそれは強みでもあると思っています。廃炉や処理水をはじめとする現在進行形の課題について、県民は生活の中である意味折り合いを付けているけれど、東京の人はわからないから不安が大きい。だからアートをコミュニケーションの架け橋とし、芸術祭を通して浜通りの魅力や価値を創出・発信したい」それが堀川さんの思いです。
当初、瀬戸内国際芸術祭のような大きな芸術祭をイメージしていましたが、今は大きさにとらわれずに持続可能な形で継続していきたいと堀川さんはいいます。「次の世代に繋いでいきたいから、無理はせず、共感を集め共鳴しあいたい。今できることを一つ一つ形にして、それを浜通りの確かな価値として少しずつ育てていきたい」一歩ずつ着実に、魅力を生み出していきます。

様々なアーティストと構想中。確定次第リリースされるとのことです。

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