アートを介して震災を知らない層にも訴求。熟知した人々にも新たな伝え方が可能に。
秋元さんは演劇や建築といったアート作品制作支援を通じ、震災と原発事故について伝えてきました。活動の中心は「私のライフワーク」と話す演劇。演劇ユニット「humunus」とともに、不定期公演を行なっています。その内容は大地の誕生から富岡町を見つめ直し、現在の町の風景と重ねながら物語をつむぐというものです。2023年には横浜国立大学の大学院生とともに、町の人々と家が建っていた場所に仮設建築物を作って人が過ごせる場所を作るという活動も展開しました。
アート活動について、すでに震災や伝承を熟知した人々だけでなく「より幅広く伝えられるのでは」と考えている秋元さん。アートを介せば熟知した層にも「新しい角度で震災や原発事故について伝えられる」と強調していました。
ただアート活動に取り組めているのも、町内ツアーガイド等の経験があってのこと。秋元さんは2017年から、語り部活動にも取り組んできたのです。
秋元さんたちが手掛けた「うつほの襞」のひと幕。富岡町内をめぐりながら、町の成り立ちを見つめ直す構成で展開されました。
高校生のころから町内ツアーガイドを経験。町役場で働き始めてからも語り部を継続。
秋元さんが語り部活動に取り組んだのは「高校生から話を聞きたい」と求められたことがきっかけです。その後2022年ごろまで、富岡町の被害状況や復興の歩みについて案内するツアーガイドとして活動。自宅近くにある夜の森の桜並木、原発からの電気を送る新福島変電所などを案内してきました。その活動は高校卒業後、就職しても続きます。
活動する中で大きかったのは、2023年に夜の森地区の避難指示が解除されたこと。制限が小さくなったことで「行動の選択肢が増えた」と感じたそうです。それだけに、解除されていないエリアの住民については「まだ復興の進みが実感できないだろう」と推測。現在進んでいる帰還への制度作りについて、その重要性も口にしていました。
しかし秋元さんもまた、被害の大きさに「向き合えない時期が長かった」と自身を振り返っています。秋元さんが震災と向き合い、伝える活動に取り組んでいくには、ひとつの転機があったのです。
小規模ツアー等で町内を案内する際、立ち寄ってきた自宅跡。2017年に家屋が解体された後は、雑草が生い茂っていました。
中学生には受け止めきれなかった衝撃。高校で演劇と出合って向き合えるように。
秋元さんは中学1年生で被災し、家族とともに県内外へ避難しました。当時は富岡町出身であることも周囲に言えず、震災にも向き合えなかったそうです。
状況が変わったのは、演劇と出合った高校入学後のこと。演劇部では生徒たちが日々震災について話し、復興で変わる地元の風景や被災時の辛さについて議論するような状況でした。そんな中で秋元さんも、少しずつ自分の思いを表に出せるように。さらに後日一時帰宅した際には、だれも住まず傷み始めた自宅の姿に直面。この経験によって震災を現実として受け止められるようになったのです。
さらに卒業後には「地元で町の復興を見届けよう」と考え、富岡町職員を志望。専門学校を経て2018年に入庁し、町職員として働いています。ただ自宅のあった夜の森地区の避難指示解除を前に「何か始めるべきでは」との衝動に駆られ、2022年に町役場を退庁。その後、現在のアート活動に軸足を移しました。
「原発が首都圏を支えていることに誇りを持つ住民も大勢いた」と話す秋元さん。原発全否定論調には違和感を覚えるそうです。
事実を伝えることと同じく興味づけも重要。優れた作品が生まれれば風化防止の鍵に。
語り部やアート活動に取り組んできた秋元さんに、現在の復興状況をどのようにとらえているか尋ねると「帰還してもしなくても、1人1人が幸せであることが大事」との答えが返ってきました。思い描く復興の形は、被災者ごとに違うと考えることが重要なのでしょう。
さらに次世代へ震災の教訓をどう伝えるかという課題には「伝承者を育てるのは難しいので、震災を自分ごととして話せる人々を増やせれば」と提言。加えて「震災に関心があれば自分から伝承者になってくれる」とも話していました。このように、秋元さんは事実を伝えることだけでなく興味づけも重視しています。あらゆる人々が多様な形で関われるアートのような活動こそ、幅広い層に興味を抱かせる伝承媒体なのかもしれません。「芸術は長く、人生は短い」という言葉もある通り、こういった表現の世界から優れた作品が生まれれば、それはきっと震災の教訓を未来につなぐ鍵になるはずです。
原発からの電力を送る里山の鉄塔は、富岡町ならではの風景。秋元さんにとっては、生まれる前からある郷土の姿のひとつです。
夜の森の桜並木
福島県双葉郡富岡町夜の森北2丁目23-18
HP:https://note.com/sacra21/n/nf93161f1e336
MAIL:yonomorikita183@gmail.com