多彩なイベントも行われる古民家カフェ。催事やメディア取材を通じて情報発信も。
志賀風夏さんは、川内村でカフェを切り盛りする若手経営者です。カフェの建物は、陶芸家である両親がいわき市から移築した古民家。両親はその移築にともなって川内村で暮らし始め、その後志賀さんが誕生しました。
このカフェは飲食店のみならず、イベントスペース等としても広く活用されています。村内の団体や事業者が会合場所として使うほか、講演会や書籍の販売会、コンサートやライブといった音楽イベント、行政によるワークショップ等が行われることも。また農家の方が手掛けた作物を調理したり試食したりする等、活用法を検討する場としても利用されてきました。カフェは震災後の村内における、コミュニティースペースのひとつとして機能してきたのです。
地域のためにそういった場所を作ることこそ、まさに志賀さんが目指してきたこと。そんな志賀さんの思いに触れられるからか、カフェには日々村内外から多数の訪問客がやって来るのです。
キッチンでドリンクを用意する志賀さん。建物は1822年にできたそうで、黒ずんだ梁が築200年の歴史を物語っています。
両親の仕事を通じて興味を覚えた陶芸の道。大学に進むも中退で一転帰村することに。
カフェがオープンしたのは、震災12年後の2023年。その間には、志賀さんが村内に集いの場を作ろうと考えるまでの紆余曲折がありました。
志賀さんが震災を経験したのは、相馬市の祖母宅から高校に通っていた高校1年生のときです。村の両親も無事でしたが、連絡が取れたのは5日後。3月中には両親も含めて鎌倉市へ避難しましたが、高校が再開された志賀さんは5月に祖母と相馬市へ戻っています。一方で両親は全村避難を受け、1年ほど鎌倉市に滞在。その後帰村して陶芸を再開したため、志賀さんも両親に習いながら本格的に取り組むように。高校で芸術に興味を持った志賀さんは、卒業後に福島大学美術科へと進みました。
しかし大学では、同じ被災者ながら避難経験のない同級生とのギャップに直面。大きな原発事故を経験しながら「どうせ原発はなくならない」と話す同級生の考えや被災者内で線引きされる状況に疑問を感じ、大学を中退することになったのです。
志賀さん手作りの陶器製メダルは、村のマラソン大会で参加賞として贈られています。毎年約2,000個を手掛けてきました。
人口減少で感じた村民が集う場の必要性。自宅の古民家を直せば作れることに気付く。
大学中退後、2017年に村へ戻った志賀さん。若者がほぼいない状況に驚いたそうです。そんな中で働くことになったのが、村にできたカフェチェーン。半年後には詩人草野心平ゆかりの資料館、天山文庫の管理人にも採用されました。地元で再始動した志賀さんですが、日々暮らす中で身の周りに問題が山積していることに思いいたります。
その問題とは両親が移築した古民家を直すこと、村内に幅広い人々が集う場が必要なこと、風評被害を受けている地元産品の販売先を探すこと、地元産物を調理して商品開発すること、村内に残る伝統を家族以外でも引き継げる機会を作ること等々。日々そういった問題について考えるうち、志賀さんは「古民家でカフェを始めればすべて解決できる!」と気付くのでした。
そんな構想を実現すべく補助金に申請したところ、無事採択されることに。2023年には晴れて、カフェ&ギャラリー秋風舎がオープンすることになったのです。
秋風舎の人気メニューである平伏沼メロンソーダ。モリアオガエルが産卵する、川内村の名所をモチーフにして開発されました。
復興に関わる人々が連携する様子を実感。移住者も加わった新たな地域の動きに注目。
被災地の若者、若手起業家、地域づくりや復興に関わる立場等として取材され、情報発信を続けてきた志賀さん。メディア対応に関わったきっかけは「当時村の20代が私だけだったから」と笑います。
そんな志賀さんは「私も含めて村の大多数は復興のためでなく、ただ以前のように暮らしたかったから戻っただけ」と強調。あくまで生活のために取り組んだことが「結果的に復興につながっている」と話していました。逆に言えばそういった等身大の姿勢だからこそ、集いの場作りや情報発信を続けられているのかもしれません。
そういった中で感じるのは、復興に関わる人々が広く連携し始めたこと。周辺市町には若い移住者も多いため「市町村の壁を気にしない彼らの影響があるのかも」と推測していました。中には被災地や復興を意識せず、ただ「何か面白いことに挑戦できる」と考えて移住する若者もいることから、地域の中で新たな動きが活性化する様子に注目しています。
村での生活に「被災地を支えてきた大人たちのお陰」と感謝する志賀さん。「次は私たちの番」との意気込みも口にしています。
カフェ&ギャラリー秋風舎
福島県双葉郡川内村下川内字牛淵509
営業時間=毎週金・土・日・月曜日11:00~17:00(ラストオーダー16:00)
定休日=毎週火~木曜日
駐車場=有
※冬季休業あり(詳細はSNSに掲載)
TEL:070-2811-6899
SNS:https://www.instagram.com/syu_fu_sya/?hl=ja