米国留学で触れたクラフトビール文化が、震災・原発事故後を生きるためのヒントに。

電力会社で広報を担当していた本間誠さん。起業前は中学生に原発内の事故防止策や安全性を説明していました。海外旅行好きもあって、2008年には留学休職制度を利用。米国シアトルで学ぶ中、仲間に自家製ビールを振る舞って楽しむ現地の文化に触れ、日本との違いに驚いたそうです。
2010年に帰国しましたが、その1年後には東日本大震災が発生。原発事故も起き、携わっていた本間さんもショックを受けることに。エネルギーと環境の関係性に疑問を感じ、職場や仕事を見つめ直したそうです。
そんな中で米国留学時の友人から誘われたのが、ビールメーカーに国産ホップを供給する新事業でした。電力会社を退職し、2015年に仙台市でホップジャパンを立ち上げたのです。1年後には福島県内の銀行によるファンドに採用されて福島市へ。2018年には復興庁の紹介で田村市都路町という土地と出合い、当時の副市長らによる協力も得て事業に取り組み始めました。

米国シアトル留学時に触れたクラフトビールを振る舞う文化が、震災後の生き方に悩んでいた本間さんへのヒントになりました。

ファンド運営元や市役所の状況が変わり、田村市都路町の適地を目にしながら動けず。

しかしその矢先、入居施設譲渡に時間を要し、ファンド運営元の赤字という壁も立ちはだかることに。結局譲渡に1年、ファンドの追加融資打ち切り決定までに1年掛かり、事業を進められない状況が2年間続くことになりました。また市長が代わるなど、地域内の環境も大きく変化。一緒に起業した友人とも考えが合わなくなり、ほぼ1人で続けることになったのです。
この苦境に、本間さんは電力会社の退職金などで対処。当時については「苦しかったが、協力者の手前辞めることはできなかった」と振り返っています。
しかし偶然にも顧問税理士が企業再生に長けていたことから、事態が好転することに。ファンドに配慮して一歩引いていた顧問税理士も、経営状況を知って運営元に支援態勢改善を要望。その結果、複数の銀行から協調融資を受けられることになりました。
紆余曲折を経て、2020年にはグリーンパーク都路内にビール醸造所がオープン。ようやく事業が形となった本間さんは、ある思いを抱いて経営に取り組んでいくのです。

一次産業のホップ栽培だけでなく、二次産業のビール製造と三次産業のビール提供まで実現させた田村市都路町のビール醸造所。

復興でなく経営に取り組むことを最優先。事業を成立させてこそ復興にも貢献できる。

本間さんは苦境も経験しただけに、信念を持って経営に取り組んできました。その姿勢を象徴するのが「ここに来たのは復興のためというより、あくまで事業の可能性を感じたから」との言葉。もちろん復興に向けた思い入れもありますが、それは本人が話すように「事業を成立させて初めて貢献できること」なのでしょう。
製品に対しても「復興への強い思いを込めた」と話す本間さん。その言葉は産業復興だけでなく、自然や産業が本来持っていた循環を取り戻そうという決意を含むものです。循環を表す陰陽五行を取り入れた商品展開に、その気持ちがうかがえます。
その理想を目指し、現在ではホップ栽培の一次産業、それを使ったビール製造の二次産業、できた製品を提供する三次産業を実現。さらに六次産業化のほか、栽培時の廃棄物を使った肥料や家畜飼料を一次産業のために提供する0次産業化も推進。地元の自然を生かした循環型事業を実現しています。

ビール醸造所内に掲示されている循環型産業の図解。ホップジャパンでは持続可能な事業による産業復興を目指しています。

取り組みを伝えることが興味づけを促す。中・浜通りの新たなお酒を結ぶ観光構想も。

本間さんは、そんな循環型事業の取り組みを伝えることにも注力してきました。知ることが製品購入につながり、それを生み出す県内への興味づけを促すのです。その観点から伝える活動を大切にし、メディア取材対応、イベント、セミナー等さまざまな手法で被災地での取り組みを発信しています。
そんな中で最近感じるのが、震災で得られた教訓の風化。米国等では震災に関する日本のニュースが報じられにくくなり、危惧を抱いているそうです。
さらに今後は次世代の若者たちに体験させることも含め、震災の経緯や教訓に触れさせたいと考えています。特に震災以降は中通りや浜通りに新たなお酒づくりへの挑戦が多数見られることから「それらを飲み歩きにも適した鉄道でつないで観光化できないか」と思案中。「県内には会津などの良質な日本酒があるが、その対となるブランドに育てられれば」と構想を口にしていました。

風評の有無を尋ねる質問に「県内で事業を始めると必ず出るので、気にせず田舎で思い切りやることにした」と話す本間さん。

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